RISPの考え方と臨床での実践方法
呼称の即時化を目指したアプローチ
(執筆者:行田智哉)
呼称の正答率は上がってきたのに、会話になると言葉がすぐに出てこない。RISPは、このような「正確に言えるけれど、時間がかかる」という課題に対して、呼称の正確性と速度の両方を高めることを目指すアプローチです。
1. はじめに:日常で重要な呼称の「速さ」
訓練効果がなかなか日常生活での発話につながらない、言葉がなかなか出てこない経験が重なるうちに、発話への抵抗感が強くなり、会話や社会活動の機会が減ってしまう。
このような現象は、失語症のある方にしばしば見られます。その背景のひとつとして考えられるのが、呼称における「速度」の問題です。
健常者の日常発話は、毎分120語以上という速さで行われ、誤りは1,000語につき約1語程度であるといわれています。つまり、日常会話では「正確に言えること」だけでなく、「すばやく言えること」も同時に求められています。
一方で、失語症のある方では、言語課題においてスピードと正確性のバランスをうまく調整しにくいことが報告されています。
この「正確性」と「速度」を同時に向上させることを目的として開発されたアプローチ、それが今回紹介するRISP(Repeated, Increasingly-Speeded Production)です。
2. 先行研究の紹介:Conroy et al.(2018)
RISPを最初に報告した代表的な研究として、Conroy et al.(2018)の研究があります。
この研究では、慢性期の脳卒中後失語症者20名を対象に、6週間の介入プログラムの中で、一般的な呼称訓練と、速度と正確性を組み合わせたRISP訓練の効果を比較しました。対象者には、重度の知覚障害や全失語の方は含まれず、幅広い重症度・タイプの失語症者が参加しています。
研究の流れ
まず、訓練語60語に対して3週間の一般的な呼称訓練を行いました。その後、30語は引き続き一般的な訓練を行い、残りの30語にはRISPを用いた介入を行うことで、両者の効果を比較しています。
| 訓練方法 | 内容 |
|---|---|
| 一般的な呼称訓練 | 絵を見て10秒以内に回答します。正答できない場合は、語頭音などのヒントを段階的に提示し、最終的に正しい出力へ導きます。臨床でもよく用いられる、段階的なヒント提示に近い方法です。 |
| RISP | 絵を見て、ビープ音が鳴る前に呼称します。時間内に正答できた場合は次の単語へ進み、誤答または時間超過の場合は、正しい名称を3回繰り返してフィードバックします。制限時間は、セッションを追うごとに段階的に短縮します。 |
RISPでは制限時間を段階的に短縮しながら実施しています。たとえば、3秒から開始し、2.5秒、2秒、1.6秒、1.3秒、1秒へと短くしていきます。
主な結果
・RISP訓練、一般的な呼称訓練のいずれも有効でした。・RISP訓練では、一般的な呼称訓練よりも、訓練語の呼称精度と呼称速度の両方で大きな改善が示されました。
・RISP訓練の効果はフォローアップ時点でも維持されており、定着の面でも有望な結果が示されました。
・情景説明課題においても、RISP介入後は訓練語が産生される割合が有意に向上しました。一方、一般的な呼称訓練では同様の変化は認められませんでした。
これらの結果から、RISPは単に絵カードの呼称成績を改善するだけでなく、日常会話に近い場面への汎化にもつながる可能性があると考えられます。
改善効果と関連する要因
同研究では、症状や神経学的特徴とRISPによる改善効果の関係についても検討されています。主な特徴として、以下の点が報告されています。
・音韻面の低下があるほど、RISPによる改善が大きい傾向がある・実行機能が高い場合、訓練効果の維持が良好である
・後上側頭回から下縦束白質にかけての損傷がある患者では、RISPの効果が出やすい傾向がある
3. 臨床での実施方法
ここでは、RISPを臨床で取り入れる際の基本的な流れを紹介します。
準備するもの
絵カードストップウォッチ記録用紙
時間制限を扱うため、反応時間を測定できる環境を整えておくと実施しやすくなります。
① 訓練語を選定する
まず、対象者にとって過度な負荷にならないように訓練語を選定します。すでに語彙としてある程度保たれているものの、呼称に時間がかかる語を選ぶと、RISPの目的に合いやすくなります。
余裕があれば、非訓練語への汎化を確認できるように、訓練語とは別に評価用の非訓練語を設定しておくとよいでしょう。
② ベースライン評価を行う
選定した語について、呼称精度と反応時間を測定します。RISPでは「正答できたか」だけでなく、「どのくらいの時間で呼称できたか」を確認することが重要です。
③ RISP訓練を実施する
初期の制限時間を設定します。最初から厳しい時間設定にするのではなく、まずは成功体験を得られるよう、比較的余裕のある時間から始めます。
絵カードを提示し、制限時間以内に呼称してもらいます。正答できた場合は次の単語へ進みます。難しい場合や時間内に答えられなかった場合は、正しい単語を提示し、3回音読してもらいます。
次回以降のセッションでは、状況に応じて制限時間を少しずつ短縮します。ただし、正答率が大きく低下する場合は、無理に時間を縮めず、一時的に制限時間を戻して精度を回復させてから再挑戦するなど、柔軟な調整が必要です。
対象者の選定と注意点
RISPは、軽度〜中等度の失語症、特に「語彙はある程度回復しているが、呼称に時間を要する」方に向いていると考えられます。
一方で、重度の理解障害がある場合、課題意図の理解が難しい場合、強い疲労や焦りが生じやすい場合には、実施方法を慎重に調整する必要があります。速度を求める訓練であるからこそ、対象者が過度にプレッシャーを感じないよう、成功率と心理的負担のバランスを見ながら進めることが大切です。
4. アプリ・ICTツールの活用
RISPでは、制限時間を細かく設定しながら訓練を行います。しかし、臨床で絵カードを提示し、ストップウォッチで反応時間を確認し、さらに記録も取るとなると、実施の負担は小さくありません。
そこで活用しやすいのが、タブレットやパソコンなどのICTツールです。実際に海外では、RISP発案をしたConroyらがQuickWord(https://play.google.com/store/apps/details?id=bondit.quickWord&hl=ja)という英語のアプリを提供しています。
また、国内でも制限時間を設定しながら呼称の練習ができるアプリも出てきています。
その一つとして、リハサプは時間制限を設定しながら呼称練習を行うことができます。なお、リハサプでは1問ごとに正答を確認する形式ではなく、いくつかの単語に取り組んだ後で復習する形式を採用しています。
5. RISPの今後の発展
呼称訓練では、どうしても「正答できたか」に注目しがちです。しかし、実際の会話では「正確に、すばやく言えること」が求められます。RISPは、その臨床的なギャップに目を向けた、非常に興味深いアプローチといえるでしょう。
ぜひ、日々の臨床の中で取り入れられる部分から試しつつ、対象者にとって無理のない形で、呼称の即時性を高める工夫を検討してみてはいかがでしょうか。
なお、RISPは近年注目されているアプローチですが、実は海外でも研究報告はまだ多いとはいえません。ぜひ、どの程度の負荷設定が望ましいのか、どのようなタイプの失語に効果があるのかを学会や論文としてまとめてみてはいかがでしょうか。
※私(行田)自身、RISPの効果への研究ついては関心があるので、臨床研究のご相談などあればお気軽にご連絡ください。
最後に余談ですが、Conroyは、呼称訓練をRISPのように難易度を徐々に上げていくのがよいのか、もしくは徐々にヒントを出して難易度を下げるのがよいのかについての面白い研究をしています。参考文献に記載しているのでよろしければご覧ください。
参考文献
- Conroy, P., Sage, K., & Lambon Ralph, M. A. (2018). Time for a quick word? The striking benefits of training speed and accuracy of word retrieval in post-stroke aphasia. Brain, 141(6), 1815–1831. https://doi.org/10.1093/brain/awy087
- Conroy, P., Sage, K., & Lambon Ralph, M. A. (2009). The effects of decreasing and increasing cue therapy on improving naming speed and accuracy for verbs and nouns in aphasia. Aphasiology, 23(6), 707–730. https://doi.org/10.1080/02687030802165574
- Conroy, P., & Scowcroft, J. (2012). Decreasing cues for a dynamic list of noun and verb naming targets: A case-series aphasia therapy study. Neuropsychological Rehabilitation, 22(2), 295–318. https://doi.org/10.1080/09602011.2011.641434
- Evans, W. S., Hula, W. D., & Starns, J. J. (2019). Speed–accuracy trade-offs and adaptation deficits in aphasia: Finding the “sweet spot” between overly cautious and incautious responding. American Journal of Speech-Language Pathology, 28(1S), 259–277. https://doi.org/10.1044/2018_AJSLP-17-0156
本記事は、Conroy et al.(2018)の原著論文および前身研究に基づき作成しています。RISPの日本語対応訓練ツールは現在発展途上であり、臨床実施に際しては原著論文の手順を参照しつつ、個々の患者さんに合わせた調整を行ってください。