退院後の言語機能の回復に重要な要因は?自宅での言語リハビリについて考える
退院後の言語機能の回復に重要な要因は?
~自宅での言語リハビリについて考える~
退院後の失語症の変化
失語症は、発症後、生涯にかけて機能障害が残りやすい症状として知られています。
現在の医療制度では、回復期病棟の入院期間は最大6カ月となっており、多くの失語症者は、より早い時期に退院となっています。
しかし、慢性期(一般に6 か月以降)に移行したとしても、 回復の可能性がなくなるわけではありません 。
実際に、発症後長期にわたって少しずつ言語機能が向上する例が数多く報告されています。では、この回復に必要な要因はどこにあるのでしょうか?
今回は、2021年にSci repで発表された”Lesion site and therapy time predict responses to a therapy for anomia after stroke”をもとに、慢性期の回復に関連する要因について考えていきます。
※回復の可能性があるなら「慢性期」という表現はそもそも適切?という疑問はありますが、この記事では便宜上こちらの表現で統一します。表現て難しいですね、、、
研究紹介:Hope ら(2021年)
この研究では、発症6か月以降の失語症者を対象に、呼称障害への治療効果に関連する要因を調べています。
目的:名詞呼称障害に対する治療効果について「どの要因から予測できるのか?」を明らかにすること。
対象:左半球脳卒中により失語症を呈した 慢性期(発症6か月以上) の成人18名。
※基準:呼称障害あり(Boston Naming Test< 56点未満)、単語レベルの理解が保持、1拍語の反復が良好(音韻ルート保持)、構音失行がないこと、左下前頭回が部分的に残存
方法:事前評価→6週間の訓練→事後評価を実施。
最小二乗回帰を用いて、事前評価や患者情報から、訓練効果を予測するモデルを作成
(簡単にいうと、治療効果と関連のある要因を見つけています)
治療内容:自宅でパソコンを用いた呼称訓練(https://www.steps.uk/)。
2時間以上×5日/週ペース×6週間することを教示。
ただし、どれだけやるかは失語症者の意思で決定。
事前評価内容:年齢・発症からの期間・性別などの人口統計データ、治療開始前の呼称精度(初期重症度に近い指標)、実際に行った治療時間、構造的MRIによる病巣部位・損傷量
〇結果
下記のような結果が得られました。
★ 最も予測精度が高かったモデルは「病巣部位 × 訓練時間」
→「損傷部位がどこか」「どれだけ訓練を実施したか」が、重症度や年齢・性別・発症からの期間よりも回復に重要だったということです。
★ 訓練時間が多いほど改善量が大きい
★ 特定の病巣部位(左下前頭回、海馬、小脳など)に損傷があると訓練効果が低い
Hope TMH, Nardo D, Holland R, Ondobaka S, Akkad H, Price CJ, Leff AP, Crinion J. Lesion site and therapy time predict responses to a therapy for anomia after stroke: a prognostic model development study. Sci Rep. 2021 Sep 17;11(1):18572. doi: 10.1038/s41598-021-97916-x. PMID: 34535718; PMCID: PMC8448867.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8448867/
〇言語リハビリにおける臨床応用
今回の研究から、現場で言語聴覚士が意識できるポイントを整理します。
★ 「病巣部位」という視点を治療方針に取り入れる
MRI画像を読み取り、病巣を把握することで、家族への説明やアプローチ選択の検討につながります。
※今回の研究では「左下前頭回、海馬、小脳の障害→治療効果が低い」という結果となりました。しかし、この方たちが絶対に回復が厳しいという訳ではありません。
この研究では、主に音韻ルートを基にしたアプローチを行っていますが、別のアプローチでは、より有効な可能性もあります。
病巣とアプローチの関連については、また別の記事で扱っていこうと思います
★ “年齢”や“発症からの期間”だけで回復可能性を判断しない
中川先生の論文でもよく報告されていますが、
一般的な回復期(発症後6カ月)が終了しても、言語機能は向上する可能性があります。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/hbfr/32/2/32_257/_article/-char/ja/
もちろん、生活の質をあげるためには、言語機能の回復だけでなく、
コミュニケーションツールなど、支援ツールを用いた社会活動などは非常に重要です。
ただし、言語機能の回復は、生活の幅を広げるために重要であることは間違いありません。
「継続的に実施したら変わる」
この意識をまずは医療者全体が持って支援することが重要かと思います。
★ ”量”を確保するということ
若干、根性論みたいになってしまうかもしれませんが、
なんだかんだ実施量を確保するというのは非常に重要であることが今回の研究で明らかになりました。
そのためにも、習慣的な実施が必要となります。
一方で、実際には、医療・介護保険制度の兼ね合いにより、
「実施したくてもできない」「PT、OTとの単位数のバランスを取る必要がある」といった、悩みもあるかと思います。
ここで注目したいのが、今回ご紹介した研究では、パソコンを用いて自宅での訓練を実施している点です。
STの先生が個別で毎回言語療法を実施できるのが理想ではありますが、
うまく、ICTツールを組み合わせることで、継続的な実施時間を確保するのが大事になってきそうです。
自主トレに使えるアプリの活用
日本でも、言葉のトレーニングとして使用できるアプリがあります。
例えば、無料で呼称練習ができるアプリ「呼称リハ(易)」や理解・発話もできる有料アプリ「言語くん」は使っている方も多いかもしれません。
最近では、AIを用いてご本人の発話の正誤をフィードバックしてくれるアプリ「コトサプ」もあり、自宅でのトレーニングの幅が広がってきています。
コトサプでは、実施内容や、結果の記録もあるため、ご家族や医療者が確認をしながら進めることも可能です。
呼称リハ(易)https://play.google.com/store/apps/details?id=com.namingrehabilitationeasy&hl=ja
まとめ
今回は、慢性期失語症における言語機能回復の要因について、先行研究を基に紹介しました。
「障害部位」「訓練時間」
直感的にもイメージしやすいものかと思いますが、
改めてこの観点を意識してみるとよいかもしれません。

なお、今回の研究では全ての失語症者に音韻アプローチを行っていますが、
障害部位と各アプローチの関係性や、適切な訓練時間については今後別の記事で紹介していきます。