呼称訓練での音韻性/意味性アプローチの選び方ー言語リハで役立つ考え方
呼称訓練のポイント -音韻性 vs 意味性アプローチ-
失語症リハビリにおいて「呼称」は臨床で重要となるテーマの一つです。
しかし、一概に呼称といってもアプローチ手法は多様です。失語症の状態をどのようにアプローチに反映すればよいのでしょうか?
今回は代表的な「音韻性アプローチ」と「意味性アプローチ」について、
最新の研究をもとに考えていきたいと思います。

音韻性アプローチと意味性アプローチとは
★意味性アプローチ(Semantic approach)の特徴
対象語に関連する意味情報を提示して、概念レベルの活性化を促す手法で、カテゴリーや、類義語、説明文などの提示を行います。これにより、脳の意味関連性のネットワークを促進させます。
*例:「りんご」→「赤い」「果物」
★音韻性アプローチ(Phonological approach)の特徴
対象語の音に着目した情報を提示する手法です。
*例:「りんご」→「文字数は何文字でしょう。」「語頭音は?」など。
どちらも有効的なアプローチとして知られていますが、その効果には個人差があります。
より効果的な訓練を実施するためには、個別化(パーソナライズ)された治療戦略の確立が課題です。
では、どのように取捨選択をすればよいのでしょうか。
今回はそのヒントとなる2021年にBrain Communications に発表された、
アメリカの論文 「Individualized Response to Semantic versus Phonological Aphasia Therapies in Stroke」 について紹介していきます。
研究紹介
~音韻性・意味性アプローチの効果比較~
研究の背景と方法
この研究ではベースラインの評価結果から、意味的アプローチと音韻性アプローチの効果を予測できるかを検証しました。
・対象:慢性期左半球脳卒中による失語症の方104名。
(失名詞25名、ブローカ失語46名、伝導失語16名、全失語4名、ウェルニッケ6名)
・概要:「3週間の音韻性アプローチ」と「3週間の意味性アプローチ」を順番に実施。
・音韻性アプローチ:PCAなどを中心に、語頭音、音節分解、韻を共有する語の提示、音節数に関する問題などを実施。
・意味性アプローチではSFAなどを中心に、関連語の回答、説明文からの語の想起、動詞を軸とした関連名詞の想起を実施。
・各アプローチは1時間/日×5日/週×3週間実施。


研究結果
・両方のアプローチが効果あったのが38名、音韻性のみ効果あったのが16名、意味性のみ効果あり26名、いづれも効果なしが18名と、
全体としては、意味性アプローチの方が音韻性アプローチよりも効果的でした。なお、意味性アプローチと音韻性アプローチの効果に相関はなかったようです。
続いて、意味性アプローチの効果には、ベースライン時のWAB-Rの自発話スコア、呼称のエラー率、流暢性の発話が関与することが明らかになりました。
★意味性アプローチが効きやすい人
・WAB自発話が良い
・伝導失語
・失名詞(傾向はあったが、有意差はなし)
・流暢性の発話である
★意味性アプローチが効きづらい人
・意味性のエラーが多い
一方で、音韻性アプローチの効果には、脳卒中症状の重症度(NIHSS)、Lesion volume、抗うつ剤の有無、発語失行の有無などが関与することが明らかになりました。
★音韻性アプローチが効きやすい人
・発語失行がある
★音韻性アプローチが効きにくい人
・重度である
・抗うつ剤を服用
研究結果をどう臨床に解釈するか
臨床の実感と研究結果の一致点
どうでしょうか。普段の臨床での肌感と近いでしょうか?
全体としては意味性のアプローチが効果がでやすいという結果です。
そのうえで、症状に応じて選択することが重要だということが示されています。
これらはWABやSLTAの評価結果をどのように介入戦略の判断に使うかのヒントになりそうですね。
なお、私個人としては、音韻性アプローチのみ抗うつ剤の有無との関連があるというのも興味深い点かと思いました。
※うつによる意欲低下がリハ効果に起因すると解釈するのか、うつがある≒前頭機能の低下が生じているからか、服用による副作用的なものなのかなど、
因果まではこの研究では分からないですが、、、、
意味性アプローチとは関連がないという点も解釈のヒントになりそうです。
★参考文献
Kristinsson S, et al. Individualized response to semantic versus phonological aphasia therapies in stroke. Brain Commun. 2021.
失語症リハビリにおける実践的な活用方法
この研究結果を臨床にいかすためには大きく下記の3つが大事です。
★評価結果(WAB・SLTA)を介入選択に活かす視点
重症度や失語症タイプ、自発話の評価、発語失行の評価などから個別アプローチを考えます。
評価を経過観察として取るのではなく、患者さんごとにどのアプローチがあうかについて、
今回の研究結果はヒントになるかと思います。
★音韻性アプローチを行うための訓練準備
音韻性アプローチは以下のような方法で実施することができます。
・おはじきや仮名文字チップを準備する
・PCAを実施するための用紙を作る
・アプリを用いて音韻課題や音韻ヒントを提示する
★意味性アプローチを行うための訓練準備
意味性アプローチは以下のような方法で実施することができます。
・SFAを実施するための用紙を作る
・各単語の関連語を準備しておく
・アプリを用いてSFAの提示や意味ヒントを行う
まとめ
今回は意味性/音韻性の観点で、症状ごとにどのようなアプローチで効果が得やすいかについて考えてきました。
失語症は症状が複雑で未知の部分も多い分野です。
日々の臨床の中でアプローチと症状の関連性を丁寧に見ていくことが、
よりよいリハビリ手法の発展につながると考えています。
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